2015年、NHKスペシャル『ネクストワールド 私たちの未来』の放送で“若返りの薬”として紹介されたのが皮切りに、
認知度が広まったNMN(=ニコチンアミドモノヌクレチド)という成分。
「ネクストワールド 私たちの未来 第2回 寿命はどこまで延びるのか」より
さらに、2020年に世界的にヒットした「LIFE SPAN-老いなき世界-」という本で紹介されたことで、
一般でも急速に知名度が上がりました。
デビッド・A・シンクレア著 「LIFE SPAN 老いなき世界」
アメリカでは2017年ころから、日本でも2020年からNMNを使ったサプリメントが次々と登場しています。
しかし、本当に期待されているような「若返り効果」はあるのでしょうか?
理系大学院卒である筆者が、NMNが効果を発揮する科学的なプロセスについて、なるべく分かりやすくまとめてみました。
NMNはどんな物質?そもそも「老い」ってなに? ⇒ NMNはブロッコリーにも含まれる”ビタミンB3”の一種
まず、NMNは全く新しい物質というわけではありません。
母乳やブロッコリー、枝豆、アボカドなど緑黄色野菜を中心とした食品に含まれているビタミンB3の一種です。
日常的に摂取している成分ということですね。
「じゃあ、ブロッコリーやアボカドを毎日食べていれば若返るんじゃない?」
残念ながら、そうもいきません。
人が1日あたりに摂取するNMNの推奨量は125mg/日です。
この量を食品から摂取しようとすると、
ブロッコリー2,000房、枝豆10,000個を毎日食べる必要があります。
現実的じゃありませんね。
なぞ、人は老いる?
そもそも、なぜ人は老いるのでしょうか?
人は生活の中の様々な要因で、細胞にダメージを受けています。
紫外線を浴びると肌が日焼けするのは分かりやすい例ですね。
他にも、食べ物を分解した際に発生する老廃物も細胞にダメージを与えます。
脂質や糖分の過剰摂取で発生する活性酸素による細胞を酸化(サビ)は、老化の大きな原因であることが分かっています。
ダメージを受けた細胞がシワの増加や内臓機能の低下、動脈硬化の原因となります。
若いころは機能の低下した細胞は次々と新しい細胞に入れ替えられるのですが、
年齢によって入れ替えのスピードが遅く、または入れ替え自体ができなくなります。
これが「老い」です。
細胞機能の低下は、細胞内にある「ミトコンドリア」と密接に関わりがあるとされています。
ミトコンドリアは、呼吸によって細胞にエネルギーを供給する役割を担っています。
また免疫にも不可欠な役割を果たしていることが研究で判明してきました。
加齢によってこのミトコンドリアの機能が低下した結果、細胞の入れ替えが滞り、
また糖尿病やアルツハイマーなどの「老い」に関連した病気になりやすくなるとされています。
「命の回数券」テロメアが短くなると、細胞分裂が止まる=老いる
ミトコンドリア以外にも、老いに関わる組織があります。
それは、あらゆる細胞中に含まれるDNAの一部分、「テロメア」という組織です。
細胞は絶えず分裂することで古い細胞から新しい細胞に入れ替わり。若さを維持します。
しかし、この細胞分裂は無限ではありません。
DEAに含まれるテロメアという構造は細胞分裂するほど短くなっていき、
やがて限界まで短くなると細胞分裂が止まります。
これも「老い」の原因です。
日経 ヘルスUP 健康づくり「「命の回数券」テロメアを守れ カギ握るは運動や睡眠」より抜粋
NMNの「若返り効果」を科学的に、なるべく分かりやすく解説
さて、ミトコンドリアとテロメアが「老い」に関わることを上述しましたが、
結論から言うとNMNはこの2つを活性化し、若返り効果を発揮するとされています。
NMNの作用を紐解く上で重要な「サーチュイン」について見ていきましょう。
長寿遺伝子「サーチュイン」はテロメアが短くなるのを抑えてくれる!
テロメアがだんだんと短くなることで細胞分裂が止まり、「老い」ていくことは上述しました。
このテロメアが短くなるのを押さえてくれる遺伝子が存在します。
それが、長寿遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン」です。
テロメアはヒストンタンパク質という外皮で覆われて保護されているのですが、
細胞分裂直後はぶちっと切れた部分が露出しています。
この部分からテロメアが余分に消耗していくのですが、サーチュインはこの部分を保護してテロメアの消耗を抑えてくれるのです。
サーチュインによる損傷したDNAの修復イメージ(参照:BPS Bioscience.com “NAMPT: Metabolism, Cancer, and Drug Discovery”)
NMNは、ミトコンドリアとサーチュインを活性化する=老いを防ぐ!
NMNは、ミトコンドリアとサーチュインを活性化することで老いを防いでくれます。
体内でどのようなメカニズムが起きているのでしょうか?
NMNは体内に入ると、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチ)という物質に変換されるとされています。
※NMNからNADへの変換についてはまだ研究途上であり、それが「NMNが若返り効果をもつ」と断言できていない理由です。
NADはあらゆる生物の細胞に含まれ、エネルギーを生み出すのに使われる生命維持の源。
しかし、加齢に伴い体内から減っていきます。
そして、残念ながらNADを直接摂取しても、消化の過程で破壊されて細胞内には取り込まれないことが研究から分かっています。
ところが、NADの前駆体(基となる物質)であるNMNを摂取し、体内でNADを生成すれば細胞内に効率的に取り込まれることが過去の研究から示唆されています。
NADの主な役割は、
①ミトコンドリア内で生成されるエネルギー源「NTP(アデノシン三リン酸)」の原料になる
⇒NADが増えるとミトコンドリアが活性化する
②サーチュインの休眠を呼び起こす
⇒加齢に伴うNADの減少を食い止めると、サーチュインをより活性状態にできる=老化を食い止める
以上の2つです。
このようなメカニズムで、NMNは体内で若返り効果を発揮してくれるとされています。
しかし、しつこいかもしれませんがNMNの体内での働きは研究途上です。
マウス試験レベルでは若返り効果の確認ができていますが、
人体ではその効果を実証する確たる結果はまだ出ていません。
NMNを摂取すればすぐに結果が出る。という性質ではないため、
結果が出るにももうしばらく時間を要するでしょう。
更なる研究が発表され次第、こちらのブログで報告したいと思います。
コメント